〒130-0013
東京都墨田区錦糸4-5-8-301
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相続事件
1 相続の基礎知識
(1)相続とは
相続とは、人の死後に、その人が有した相続財産を、特定の人に承継させることをいいます。 亡くなった人を「被相続人」、権利義務を承継する人を「相続人」といい、人の死亡によって相続が発生することを「相続の開始」といいます。
(2)相続財産
相続財産とは、被相続人から相続人が相続する財産のことで、資産(プラスの財産)だけではなく、負債(マイナスの財産)も含まれます。
また、財産の性質上、相続財産にならないものも存在します。基本的に、被相続人の一身専属的な権利義務は、相続財産の対象とはなりません。
ⅰ)相続財産となるものの具体例
①資産(プラスの財産)
・金融資産(現金、預貯金、有価証券、小切手、株式、国債、貸付金、手形等)
・不動産(土地、建物)
・不動産上の権利(借地権、借家権、地上権、等)
・動産(自動車、家財、骨董品、貴金属、等)
・無体財産権(特許権、商標権、意匠権、著作権、等)
②負債(マイナスの財産)
・借金(借入金、買掛金、手形債務、保証債務、等)
・公租公課(未払の所得税、住民税、固定資産税、等)
ⅱ)相続財産とならないものの具体例
①財産分与請求権
②生活保護受給権
③扶養請求権
④受取人指定のある生命保険金
⑤墓地、霊廟、仏壇・仏具、神具、香典など祭祀に関するもの
(3)相続人
相続において誰が相続人となるかは、最も重要なことです。誰が相続人となるかについて民法は、被相続人と一定の身分関係にある者を相続人とし、その範囲と順位を定めています(民法上の相続人を、「法定相続人」といいます)。
民法では、被相続人の子を、第1順位の相続人、被相続人の直系尊属を、第2順位の相続人、被相続人の兄弟姉妹を、第3順位の相続人、とするとともに、被相続人の配偶者は常に相続人となるとしています。
なお、民法は、法定相続人が被相続人の死亡以前に死亡したり、相続権を失ったりしたときに、その子が相続人に代わって相続する代襲相続の制度を設けています。
また、民法には、相続欠格の制度、相続廃除の制度も設けられています。
(4)相続分
相続分とは、被相続人の財産全体に対する各相続人の取り分の割合のことをいいます。
相続分は、遺言による指定がある場合はその指定に従い、遺言による指定がない場合には、民法の定める一定割合によります。なお、遺言による指定割合を指定相続分、民法による法定割合を法定相続分といいます。
ⅰ)指定相続分
被相続人は、遺言で相続人の相続分を定め、または相続分を定めることを第三者に委託することができます。相続分の指定や、指定の委託は必ず遺言によらなければならず、それ以外の生前行為で行うことは認められません。
ⅱ)法定相続分
遺言による財産の配分に指定がない場合に、民法の定める法定相続分が適用されます。
① 相続人が配偶者と子の場合
配偶者の法定相続分は1/2、子は何人いても法定相続分は全体で1/2となります。
② 相続人が配偶者と直系尊属の場合
配偶者の法定相続分は2/3、直系尊属は何人いても全体で1/3となります。 実父母・養父母の区別なく、直系尊属各人の法定相続分は均等とされています。また、父母の代の者が一人もなく、祖父母の代の者が相続する場合も同様です。
③ 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合
配偶者の法定相続分は3/4、兄弟姉妹は何人いても法定相続分は全体で1/4となります。
④ 配偶者がおらず、相続人が子、直系尊属、兄弟姉妹の場合
相続開始時に第1順位である子がいる場合は、直系尊属や兄弟姉妹は相続人とはなりません。子がいない場合にはじめて第2順位の直系尊属が相続人となります。そして、子および直系尊属がいない場合にはじめて第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。
2 相続の流れ
相続は、おおまかに以下の流れに沿って進んでいきます。
(1)被相続人の死
被相続人が亡くなって初めて相続が開始されます。
死は誰にでも訪れるものです。相続は、必ずと言っていいほど起こることですが、実際に相続手続が始まったものの、何から始めたらよいのかがわからないことも多いと思います。
遺言書があれば、それに則って進めればいいのですが、遺言書がない場合、遺産分割協議書を作成しなければなりません。それがないと、土地、建物、預金、投資信託、その他もろもろの遺産の名義変更や解約がまったく進みません。
遺産分割協議書を作成した後は、相続手続はそれに則って進めていきますが、その前にやらなければならないことがあります。
(2)相続財産の調査
被相続人が、何を、どれくらい財産として持っていたのか、を調べることになります。
例えば、残された預金通帳、登記簿謄本、株券、投資信託の証書などから遺産を確定していきます。
なお、調査に際し、金融機関に問い合わせることなどもありますが、その場合は相続人であることの資料の提出が求められます。そのためにも、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人の戸籍謄本などを入手しておきましょう。
(3)相続財産の評価
調査した相続財産の評価をします。この評価は、時価評価になります。現金や預金などは簡単ですが、不動産や車、株券などは業者や専門家に評価を依頼しましょう。
(4)相続人の確定
遺産分割協議書は、相続人全員の署名捺印が必要になりますので、誰が相続人かを調べることは、非常に重要です。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集し、相続人が誰か、何人いるのかなどを調査するのですが、戸籍は、戸籍法改正による様式の変更(改籍)や、本籍の変更(転籍)があることから、いくつも存在します。相続人を確定するには、そのすべてが必要です。しかも、被相続人の本籍があった自治体に請求をしないと集まらないため、全謄本を集めるのに数ヶ月かかることも少なくありません。
また、戸籍謄本を取り寄せた結果、前婚のときの子供がいたり、認知した子供がいたりすることもあります。その子供も相続人となりますので、注意が必要です。
(5)遺産分割
遺言がある場合には、原則として遺言書の通りに、遺言書がない場合には、相続人間の協議により分割をします。なお、協議が整わない場合には家庭裁判所に調停・審判を申し立てます。
(6)遺産分割協議の実行・不動産の登記名義の移転
遺産分割協議で定まった通りに、実際に遺産を分割します。
3 遺言
(1)遺言の種類
遺言には、以下の2種類があります。
①普通方式遺言-・自筆証書遺言…手書きで作成した遺言
・公正証書遺言…公証役場で公証人に作成してもらう遺
言
・秘密証書遺言…遺言する人が自分で作成した遺言書を公証人のところまで持っていき、遺言書の「内容」を秘密にしたまま、遺言書の「存在」のみを公証人に証明してもらった遺言。
②特別方式遺言…普通方式遺言ができない場合の遺言
(2)遺言書の書き方
(自筆証書遺言の記載例)
遺言書
1 遺言者である私山田一郎は、その所有する遺産について、相続人らに対して次の通り遺言する。
(1)妻山田花子に次の不動産を相続させる。
土地 所 在
地 番
地 目
地 積
建物 所 在
家屋番号
種 類
構 造
床面積
(2)長男山田太郎に次の財産を相続させる。
A株式会社の株式すべて 10000株(預託先B証券C支店)
D電力株式会社の株式すべて 30000株(預託先E証券F支店)
(3)長女田中一美に次の財産を相続させる。
いろは銀行本店の遺言者名義の定期貯金すべて
2 上記以外の財産は、すべて妻に相続させる。
3 遺言執行者として下記の者を指定する。
○○県○○市○○1-2-3
××法律事務所
弁護士 鈴木 幸一
平成××年△月△日
○○県○○市○○町4丁目5番6号
遺言者 山田 一郎 (印)
なお、以下に遺言の内容のいくつかの例を示しますので、参考にしてください。
・私の友人、伊藤雄太に対して、次の絵画を1点遺贈する。
絵画の名称
・祭祀の主宰者として、次の者を指定する。
長男 山田太郎
・遺言者は下記土地上にある下記建物を、敷地の借地権とともに遺言者の妻山田花子に相続させる。
・遺言者は、下記建物の借家権を遺言者の内縁の妻渡辺秋子に遺贈する。
・下記の子は、遺言者と渡辺秋子の子供であり、認知する。
・遺言者の孫山田和男に対し、次の財産を遺贈する。
・遺言執行者の報酬は、遺言者死亡時の遺産総額時価の8%とし、遺産全体で負担するものとする。
・遺言者は、遺言者が生前に遺言者の子供たちにした贈与に関し、遺産分割の際の計算の仕方について遺言できる。
※自筆証書遺言は、①全文自分で書くこと(代筆、パソコンなどは不可)、②日付、署名があること、③押印(実印でなくても可)があることが要件となりますので、注意が必要です。
(3)遺言の検認
ⅰ)遺言の検認とは
遺言者が亡くなった後、自筆証書遺言・秘密証書遺言を、保管又は発見した相続人は、速やかに家庭裁判所に持参・提出し、検認の請求をしなければなりません。
検認は、相続人に対して遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。
相続人や代理人立会いの上で検認を受けると、家庭裁判所において「検認調書」が作成されます。検認に立ち会わなかった相続人などに対しては、家庭裁判所から検認されたことが通知されます。
なお、検認が必要なのは、自分で作成・保管する自筆証書遺言と秘密証書遺言であり、公証人役場で作成・保管する公正証書遺言は、偽造などのおそれがないので、検認手続きは必要とされません。
遺言書を家庭裁判所に提出しなかったり、その検認を経ないで遺言を執行したり、封印のある遺言書を家庭裁判所外において開封をした場合、遺言自体は無効になりませんが、このような行為をした人は、5万円以下の過料に処せられます。
ⅱ)検認の効力
もっとも、遺言の検認は、遺言書の中身についての有効、無効を判断するものではありません。
したがって、当該遺言が遺言者以外の者によって偽造されていた可能性があるなど、遺言書の有効性に疑義がある場合には、検認後であっても、遺言無効確認訴訟を提起することで遺言の有効・無効を争うことができます。
最近では、認知症の状態で遺言を書いた、あるいは書かせたことによる遺言の有効性を争う事例が多くなっています。
(3)遺言執行者
ⅰ)遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言書の内容を具体的に実現する人のことで、遺言書に書かれている内容・趣旨にそって、相続人の代理人として遺産を管理し、名義変更などの各種の手続きを行います。
遺言書の検認を経て、いざ相続手続を行おうとしても、その執行でもめることも、残念ながら少なくありません。特に、預貯金の解約や貸金庫の開閉などには、銀行所定の書式に相続人の署名・捺印、印鑑証明書が求められたり、戸籍謄本を求められたりしますので、相続人同士が遠方に住んでいたり、仲が悪かったりするとなかなかスムーズには進みません。
したがって、費用を払っても、遺言執行者を指名しておいたほうが、無用な争いを回避することができます。
また、遺言書の内容によっては、必ず遺言執行者が必要となる場合もあります。
ⅱ)遺言執行者の指定・解任
遺言執行者は、遺言で指定される場合と、家庭裁判所により選任される場合があります。
① 遺言書による指定
遺言者は、その遺言書の中で遺言執行者を指定することや、遺言執行者を決めることを委託することができます。
② 家庭裁判所による選任
遺言執行者の指名または指名の委託がない場合や、指定された者が遺言執行者になることを拒否した場合、遺言執行者につき死亡、解任、辞任などの事由が生じたような場合は、利害関係人は、家庭裁判所に遺言執行人選任の申立を行うことができます。
なお、遺言執行者に指定された者は、遺言執行者になることを承諾することはもちろん、拒絶することも自由ですが、承諾したときは、直ちに任務を行わなければなりません。また、遺言執行者が、任務を怠るなど正当な事由がある場合は、家庭裁判所を通じて解任をすることができます。
ⅲ)遺言執行者の職務
① 相続人・受遺者への通知
遺言書の存在と遺言執行者に就職したことを通知します。
② 相続人を確定する
戸籍・除籍・原戸籍・住民票などを取り寄せて、調査します。
③ 検認手続
相続人の代理人として、検認手続を行います。ただし、公正証書遺言では不要です。
④ 貸金庫の開閉
⑤ 財産目録の作成
⑥ 遺言認知手続、推定相続人の排除手続
遺言に、認知や排除の記載があれば、戸籍の届出や家庭裁判所に申立を行います。
⑦ 不動産の名義変更手続き
⑧ 預貯金の名義変更や解約
⑨ 株式などの名義変更
⑩ 電話加入権、電気、ガス、水道の名義変更
⑪ 生命保険や火災保険、賃借権などの名義変更や整理
⑫ 年金の停止
⑬ 債務の調査
ⅳ)遺言執行事務の終了
遺言執行者は、遺言執行事務が終了した時は、報告書を作成して、相続人・受遺者に交付します。
(4)遺言の撤回
ⅰ)遺言の撤回とは
一度作成した遺言書でも、遺言者が生存している間は、いつでも遺言の全部または一部を書き直すことができます。
遺言の内容を撤回したい場合は、自筆証書遺言であれば、破棄するか、新たに遺言書を作成し、「平成○年○月○日にした遺言の全部(または~の部分)を撤回する」と書けばOKです。
公正証書遺言を撤回する場合には、その原本は公証役場に保管されていて破棄することができませんので、遺言を撤回する旨の遺言書、あるいは変更する遺言書を作成しておくことが必要です。
ⅱ)法定撤回
遺言者が、次のような行為を行った場合は、古い遺言を撤回したものとみなされます。
①前の遺言と内容的に抵触する遺言が作成された場合
例)「妻に甲土地を相続させる」旨の遺言をしたのちに、「長男に甲土地を相続させる」との遺言書を新たに作成した場合です。
なお、撤回したことになるのは、前の遺言に抵触した部分ですので、それ以外の部分については、有効ということになります。
②遺言者が遺言の内容に抵触する売買、贈与など処分行為を行った場合
例)「妻に甲土地を相続させる」旨の遺言をしたにもかかわらず、その後、遺言者が生前に甲土地を第三者に売却した場合です。
これについても、撤回したことになるのは、処分された財産についてのみですので、それ以外の部分については、有効ということになります。
③遺言者が遺言書を故意に破棄した場合
例)遺言者が遺言を破り棄てたり、燃やしたりした場合です。
この場合は、当然ながら遺言書を撤回したものとみなされます。
④遺言者が故意に遺言の目的物を破棄した場合
例)「長女に建物を与える」旨の遺言をしたのちに、これを遺言者が取り 壊したような場合です。
この場合も、当然ながら、その部分については撤回したものとみなされ、それ以外の部分については有効です。
ⅲ)遺言が複数ある場合
遺言が複数ある場合、日付の新しいものが優先します。ただし、日付の新しいものが有効といっても、日付の古い遺言全体が無効というわけではありません。古い遺言と新しい遺言の内容がくい違う部分についてだけが新しい遺言の内容が優先するということです。その他の部分については、なお古い 遺言が有効です。
4 遺留分
(1)遺留分とは
相続財産は、被相続人のものですから、遺言で法定相続分と異なる割合で相続財産を相続させることもできます。しかし、これを無制限に認めてしまうと、相続人に不利益な事態が起こることも考えられます。極端な例ですが、友人あるいは愛人に全財産を与えるなどといった遺言がなされると、被相続人名義の不動産に居住していた家族は、出て行かざるをえないなどということになりかねません。
そこで、このような事態を防ぐため、民法では、相続財産の一定割合の取得『遺留分(いりゅうぶん)』を相続人に保証する制度が規定されています。
また、自己の遺留分の範囲まで財産の返還請求することを『遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)』といいます。
なお、遺留分の侵害が生ずるのは、生前贈与や遺贈が過大な場合だけに限られません。相続分の指定がなされた場合に、共同相続人の間でも生じます。共同相続人同士で遺留分が侵害された場合、減殺請求を誰に対してするかという問題がありますが、自己の遺留分を超えて取得した相続人に対して請求するものとされています。
なお、遺留分減殺請求をするかどうかは相続人の自由です。したがって、遺留分を侵害するような遺言は当然として無効なのではなく、遺留分減殺請求がなされるまでは、有効な遺言として効力を有し、請求されて初めて無効になります。
(2)遺留分権者
遺留分権者は、被相続人の配偶者、子、直系尊属です。兄弟姉妹は含まれません。また、相続欠格者、相続を廃除された者、相続を放棄した者は、遺留分権利者とはなりません。
なお、被相続人よりも先に死亡している子の代襲相続人、相続欠格者及び廃除者の代襲相続人も、遺留分を有します。
(3)遺留分割合
ⅰ)総体的遺留分(遺留分権者である相続人全体がもつ遺留分の割合)
①直系尊属のみが相続人である場合…遺産の1/3
②その他の場合…遺産の1/2
例)配偶者もしくは子のみが相続人の場合
配偶者と子が相続人の場合
配偶者と直系尊属が相続人の場合
ⅱ)個別的遺留分(遺留分権者である相続人が複数いる場合に、各相続人がもつ遺留分の割合)
総体的遺留分×法定相続分
例)相続人が配偶者と子2人の場合
・配偶者の個別的遺留分
相続財産の1/2(総体的遺留分)×1/2(配偶者の法定相続分)=1/4
・子の個別的遺留分
相続財産の1/2(総体的遺留分)×1/2×1/2(子の法定相続分1/2を2人で等分)=1/8
例)相続人が父母のみの場合
・父母各々の個別的遺留分
相続財産の1/3(総体的遺留分)×1/2(父母で等分)=1/6
(4)遺留分の算定の基礎にする財産
遺留分は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額に、相続開始前1年間に贈与した財産の価額(ただし、遺留分を侵すことを双方が知って贈与した財産は、1年より前の贈与であっても加算されます。また、相続人に対してなされた贈与で、特別受益に該当するものは、相続開始の1年以上前の贈与もすべて加算されます)を加え、債務額を控除したものを基礎として算定します。
そのため、遺留分を算定するためには、基礎となる相続財産及び債務を明らかにし、それらの評価をする必要があります。
(5)遺留分減殺請求権
ⅰ)行使期間
遺留分減殺請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害するような贈与や遺贈があったことを知ったときから1年間、または、相続開始の時から10年間が経過すると時効にかかります。
※「相続の開始を知ったとき」とは、被相続人が死亡したのを知った時をいい、「遺留分を侵害するような贈与や遺贈があったことを知ったとき」とは、単に減殺の対象とされている贈与のあったことを知っただけではなく、その贈与が遺留分を侵害し、減殺することが出来ることまで知ったときとされています。
ⅱ)行使方法
遺留分減殺請求の行使方法には特に決まりはなく、遺留分の権利を侵害している相手方に対して減殺の意思表示をするだけで効力が生じるとする判例もありますが、後日の証拠のため、あるいは時効との関係上、確定日付のある内容証明郵便で行うことが一般的です。
なお、遺言執行者がいる場合は、遺言執行者にも減殺請求を行うことを知らせておきます。
また、遺留分減殺請求をしたのに、相手方が応じようとしない場合は、家庭裁判所に調停を申し立て、それでも駄目な場合は、地方裁判所に訴訟を提起します。
ⅲ)減殺の順序
遺留分減殺の順序としては、
①贈与と遺贈が併存している場合、贈与は遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができません。
②数個の遺贈がある場合、遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺します。
③数個の贈与がある場合、贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対して行います。
ⅳ)効果
遺留分を侵害された相続人が、遺留分減殺請求権を行使すると、遺留分を侵害している遺贈または贈与の効果が失われるので、受遺者・受贈者は、侵害している遺留分の額の財産を相続人に返還しなければなりません。
なお、受贈者などは現物を返還しなければならないのが原則ですが、減殺を受けるべき限度で価額を弁償して現物の返還義務を免れることができます。
(6)遺留分の放棄
遺留分については、放棄することができますが、相続開始前に遺留分を放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。なお、遺留分の放棄の許可を家庭裁判所に申し立てることができるのは、被相続人の配偶者と第一順位の相続人です。また、相続開始後の遺留分の放棄は自由ですので、家庭裁判所の許可 は必要ではありません。
遺留分の放棄をしても、相続を放棄したことにはなりません。したがって、遺留分を放棄した者も、相続が開始すれば相続人となります。また、被相続人が遺言をしないまま死亡した場合には、遺産分割の当事者にもなります。
5 遺産分割
(1)遺産分割とは
相続が開始しすると、被相続人が有していた財産は、いったん法定相続分に応じて相続人に共同相続されます。遺産分割とは、このような財産の共有状態を解消し、被相続人の財産を各相続人に分配して取得させる手続きをいいます。
(2)遺産分割の方法
①指定分割
被相続人が、遺言で具体的な分割の方法を定めているときは、その指定に従って遺産を分割します。
②協議分割
遺言がない場合やあっても相続分の指定のみをしている場合、遺言から漏れている財産がある場合は、共同相続人全員の協議によって遺産を分割します。協議分割は、相続人全員の参加が必須条件であり、一部の相続人を排除した遺産分割協議は無効となります。また、相続人全員の合意がなければ成立しません。逆に、相続人の全員の合意がれば、どのような協議分割を行ってもよく、必ずしも、遺言による指定相続分や法定相続分に従う必要はありません。
なお、遺産分割が終了した場合、再度、争いや揉め事が起こらないようにするために遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員の署名・印鑑が必要になります。
③調停分割
分割協議がまとまらない場合、あるいは協議をすることができない場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てます。調停において当事者間に合意が成立し、調停委員会によってそれが相当であると認められた場合に、これを調書に記載したときは調停が成立し、手続は終了します。
成立した調停調書は、確定判決と同一の効力が生じます。調書で具体的給付義務が定められている場合には、将来執行の問題が生じないように、対象物を正確に特定した内容としてもらうことが必要です。
④審判分割
調停不成立等の場合は、家庭裁判所に審判を申し立てます。なお、先に調停を申立てていた場合、調停不成立の時には当然に審判手続に移行し、調停申立ての時に審判申立があったと見なされますので、改めて家庭裁判所に審判の申立をする必要はありません。
(3)分割の態様
被相続人の相続財産が、現金や預貯金など比較的簡単に分割できるものであればよいのですが、土地や建物などを分割することは容易ではありません。
相続財産を具体的に分割する方法としては、主に以下のような3つの方法があります。
ⅰ)現物分割
相続財産を現物(建物、土地、株式など)で分ける方法です。例えば、「土地と家屋は妻に、株式は長男に、預貯金は長女に」というように、個々の相続財産について誰が取得するかを決めます。
ⅱ)代償分割
特定の相続人あるいは一部の相続人に相続財産の全部または一部を現物で取得させ、その代わりに他の相続人に不足分を代償として現金で支払う方法です。
相続財産が、分割することが困難または適さない自社株、会社の入っているビルだった場合などによく利用されます。
なお、代償分割を実施する場合に、代償として支払う現金の代わりに、自分自身の財産の中から株式・不動産・有価証券などの現物を他の相続人に譲渡することを代物分割といいます。
ⅲ)換価分割
不動産など、相続財産の一部または全部を売却して金銭化し、そのお金を相続人で分ける方法です。なお、売却が困難な財産については、換価分割を実施することはできません。
(4)遺産分割の流れ
①相続人の確定
→遺産分割協議は、相続人全員の参加が大原則なため、相続人の一人でも欠いた遺産分割協議は無効です。
なお、相続人の中に行方不明者がいた場合は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てるか、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てます。
②相続財産の確定
③相続財産の評価
→あらかじめ被相続人の財産を洗い出し、財産目録を作成します。
なお、遺産分割の際の財産の評価は、分割協議時の時価で行うのが原則です。
④相続人全員の合意
→遺産分割協議は、共同相続人全員の合意が必要です。
なお、相続人が遠方にいるような場合、分割案を作成し、相続人の間をもちまわって承諾を得ることでもかまいませんし、相続人1人に1枚ずつ分割案を作成して、それに各相続人が署名捺印するという方法でもかまいません。この場合は、「遺産分割協議証明書」とします。
⑤遺産分割協議書の作成
→全員の合意により協議が成立したときは、それを証する遺産分割協議書を作成します。
なお、遺産分割協議は、相続人全員の合意により成立するため、いったん成立すれば効力が生じ、無効や取消の原因がない限り、原則としてやり直しすることはできません。
遺産分割協議で相続人の1人が不動産を取得する代わりに別の相続人に代償金を支払うと約束していたのに、なかなか履行してくれないというような場合であっても、遺産分割協議を解除してやり直しを求めることもできません。このような場合は、調停や訴訟で実現を求めることになります。
では遺産があとになって新たに出てきたという場合はどうなるのでしょう。この場合は、その遺産について新たに協議をすることになります。ただし、もれていた財産が一部の相続人に隠匿されたものであったり、遺産全体の中で大部分を占めるときは、従前の遺産分割協議の無効を主張することができます。
以上のようにいったん成立した遺産分割協議は原則として解除できませんが、相続人全員の合意があれば、その合意によって先の遺産分割協議を解除し、新たに遺産分割協議をすることができます。
なお、遺言があることを知らないで遺産分割をしてしまった場合は、遺言の内容に反する部分は、無効となります。ただし、相続人全員が、その遺言を無視して遺産分割を行うという合意があれば、その合意が優先されます。しかし、相続人のうち1人でも異議が出た場合は、あらためて遺言に沿った再分割をする必要があります。
6 特別受益
(1)特別受益とは
特別受益とは、特定の相続人が、被相続人から、婚姻費用、養子縁組費用、生計の資本などについて、生前贈与や遺贈を受けているときの利益のことをいいます。
共同相続人の中に、特別受益を受けている者がいた場合、これを単純に法定相続分どおりに分けると不公平が生じます。このような場合は、その贈与された財産を含めて遺産とし(=特別受益の持ち戻し)、遺産分割を行います。
(2)特別受益者の範囲
特別受益の持ち戻しをする必要があるのは、相続人の中で、被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた者に限られます。そして、特別受益者に該当するか否かは、生前贈与等がなされた時点において、贈与等を受けた者が推定相続人であったか否かによって判断します。
(3)特別受益の対象となる財産
ⅰ)遺贈されたもの
ⅱ)婚姻や養子縁組のために贈与された費用
持参金や支度金など婚姻(養子縁組)のために被相続人から支出してもらった費用が典型的なものです。このような費用は、原則として特別受益に該当します。
ただし、金額が少額で被相続人の生前の資産及び生活状況に照らし、扶養の一部と認められる場合は、特別受益とはなりません。
また、結納金、挙式費用については、実務上確立した扱いがありませんが、標準的な金額であれば、遺産の前渡しとはいえないため、特別受益に該当しません。
ⅲ)生計の資本としての贈与
①高等教育のための学資
親の扶養義務の範囲に属する義務教育はもちろん、現在の教育水準に照らし、高等学校教育も義務教育に場合に準じて考えることができるため、高等教育には含まれません。
原則として、大学以上の教育がここにいう高等教育に該当するといえ、留学の費用、留学に準じるような海外旅行の費用も同様と考えられます。
このような高等教育のために被相続人の支出した費用又は被相続人から贈与された金額は、原則として特別受益に該当します。
ただし、被相続人の生前の資産収入、社会的地位及び生活状況に照らし、その程度の教育をするのが普通であるという場合、すなわち扶養の範囲内と認められる場合は該当しません。
②不動産の贈与
子供が独立する際に居住用の宅地を贈与した場合などで、不動産はそれ自体高額な財産ですから、不動産の贈与は、生計の資本としての贈与と認められる場合がほとんどであり、原則として特別受益に該当します。
③動産、金銭、社員権、有価証券、金銭債権の贈与
相当額の贈与である場合には、原則として特別受益に該当します。
相当額とは、被相続人の資産収入、社会的地位及び生活状況に照らして、小遣い、慰労金、礼金の範囲を超え、相続分の前渡しと認められる程度の高額であることを意味します。
④借地権の承継・設定
被相続人の生前に、被相続人名義の借地権を、相続人の1人の名義に書き換えることがあります。
この場合は、原則として被相続人から相続人の1人に対する借地権相当額の贈与となります。
名義書換に当たり、その相続人が借地権取得の対価と認められる程度の名義書換料を支払っていたときは、借地権相当額から書換料を差引くことになると思われます。
一方、借家権は、原則として承継、設定とも特別受益の問題は生じません。
また、被相続人の土地上に相続人が建物を建築する際に借地権を設定した場合、借地権相当額の贈与と同視することができ、特別受益に該当します。
ただし、相続人が被相続人に対し、借地権取得の対価すなわち世間相場の権利金を支払っている場合は、贈与と同視できないので特別受益に該当しません。
⑤生命保険金
生命保険金は、被相続人と保険会社が契約し、被相続人が保険料を支払い、被相続人死亡によって、相続人が受取人として保険金を取得するものです。
保険金を支払うのは保険会社であって被相続人ではないため、保険金は被相続人の遺産ではなく、受取人固有の財産となります。
判例上は、生命保険金を原則として特別受益に該当しないと扱っていますが、相続人間の不公平が到底是認できないほどに著しいと評価すべき特段の事情がある場合には、特別受益に準じて扱うとされています(最高裁平成16年10月29日判決)。
(4)特別受益の評価
ⅰ)評価の基準時
特別受益財産の評価の基準時は、相続の開始時です。
ⅱ)評価の方法
金銭で受け取った場合は、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額で評価します。
不動産、動産、株式、有価証券、ゴルフ会員権、変動する金銭債権などは、相続開始時の時価評価とする説が一般的です。
ただし、建物や婚姻に際して贈与された家財道具のように、年数の経過により減価するものについては、贈与時の価額を相続開始時の価額に評価換えする場合もあります。
なお、贈与の目的物が滅失したり、その価額が減少した場合、その目的物の滅失や価額の減少が、受贈者の行為に起因する場合は、その目的物が相続開始時、受贈者の行為の加えられていない贈与当時の状態のままで存するものとみなされて、相続開始時の時価で評価されます。その目的物の滅失や価額の減少が、不可抗力であった場合、目的物の滅失の場合は、その価額を受贈者の相続分から差し引くのは酷ですから、その者は何も貰わなかったものとして、相続分が計算されます。目的物の価額の減少の場合は、相続開始時のその物の時価によって評価されます。
(5)特別受益がある場合の相続分の算定方法
ⅰ)共同相続人中に特別受益者が存在する場合には、次の方法で相続分を算定することになります。
①相続開始時の相続財産の価額+贈与の目的物の価額=みなし相続財産額
なお、遺贈の場合には、遺贈財産の価額は相続財産の価額中に含まれていますから、加算する必要はありません。
②みなし相続財産額×法定または指定の相続分率)=本来の相続分
③本来の相続分-遺贈または贈与の目的物の価額=具体的相続分
ⅱ)具体例
・夫Aが死亡し、遺産は1億円、相続人は妻Bと子C、D。このうち、子Cは結婚資金として1000万、子Dは住宅購入資金として2000万を受け取っていた場合
妻Bの相続分=(1億円+3000万)×1/2=6500万
子Cの相続分=(1億円+3000万)×1/4-1000万=2250万
子Dの相続分=(1億円+3000万)×1/4-2000万=1250万
※特別受益額が相続分を超えるときは、超過特別受益者はその相続分を受けることができません。この場合、超過特別受益者は遺産から何ももらえませんが、特別受益額が相続分を超えていたとしてもその超過分を返す必要はありません(判例・通説)。
(6)特別受益の持戻しの免除
被相続人が遺言などで、このような特別受益の持ち戻しをしないという意思表示をしていれば、その意思表示に従うことになります。これを特別受益の持戻しの免除といいます。
すなわち、特別受益が遺贈である場合にはその遺贈を除いた財産だけを対象に、また、特別受益が生前贈与である場合にはこれを考慮せずに死亡時の財産だけを対象に、法定相続分に従って遺産を分配することになります。
※意思表示の方式は、特別の方式を必要とせず、遺言でも生前行為でもよいし、明示でも黙示でもよいとされています。したがって、特別受益であっても事情により黙示の持戻しの免除があったものと認められる場合があります。
(7)相続分がないことの証明書
ⅰ)相続分がないことの証明書とは
相続分がないことの証明書とは、被相続人から生前贈与を受けた相続人に相続分がないという場合に、その相続人がその旨を記した証明書のことをいいます。
実際に、生前贈与があり、その額が相続分を超える場合には、特別受益者である相続人には、相続する相続財産がないことになります。
その場合に、相続分がないことの証明書または特別受益証明書を作成して、相続登記が行われることがあります。
ⅱ)問題点
相続分がないことの証明書は、その内容が実際に贈与を受けていなかったなど事実に反する例も多く、後になって証明書の効力が争われ、その有効性を否定された例もあります。したがって、証明書の利用には慎重を期すべきです。
7 寄与分
(1)寄与分とは
寄与分とは、特定の相続人が、被相続人の財産の維持または形成にについて特別の寄与をした場合に、他の相続人との間の実質的な公平を図るため、寄与者に対して相続分にその寄与に相当する額を加えた財産の取得を認める制度のことです。
遺産分割をするときに検討する寄与分ですが、寄与分があるといえるためには、寄与行為の存在によって、被相続人の財産の維持又は増加があること、寄与行為が特別の寄与といえることが必要です。
また、寄与分を主張できるのは、相続人にかぎられ、内縁の妻や事実上の養子などは、どんなに貢献していたとしても、自ら寄与分を主張することはできません。相続放棄した者、相続欠格者及び廃除された者も寄与分を主張する資格はありません。
(2)寄与分の態様
寄与分が認められるのは、被相続人の事業に関する労務の提供または財産の給付、被相続人の療養看護その他の方法により、被相続人の財産の維持または増加につき特別に寄与をした共同相続人です。
具体的には、以下のような場合が挙げられます。
ⅰ)家業従事型
相続人が被相続人の事業に従事することで、遺産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。典型例は、農業や商工業ですが、医師、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士などの業務を含むとされています。
ただし、家業従事が特別の寄与に該当するといえるためには、無償性、継続性、専従性、被相続人との身分関係等が問題となります。
寄与行為に対して、対価をもらっておらず、長期間継続して行われ、その寄与行為が臨時になされるものではなく、本来自分が従事すべき仕事と同様に携わていた場合は、特別の寄与に該当するとみなされます。
なお、特別の寄与とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を超えた貢献をいいます。
したがって、その程度は、被相続人との具体的身分関係によって差異が生ずるものであり、配偶者、子、兄弟姉妹、親族のいずれであるか等によって、同様の寄与行為がある場合でも寄与分の認定上、差が出ることになります。
ⅱ)金銭出資型
相続人が被相続人に対し、財産上の給付を行い、又は被相続人の借金を返すなどして、遺産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。共稼ぎの夫婦の一方である夫が夫名義で不動産を取得するに際し、妻が自己の得た収入を提供する場合、相続人が被相続人に対し、自己所有の不動産を贈与する場合、相続人が被相続人に対し、自己所有の不動産を無償で使用させる場合などが挙げられます。
ただし、寄与分を肯定するためには、相続開始時に金銭等出資の効果が残っているという場合でなければなりません。
ⅲ)療養看護型
療養看護型とは、相続人が被相続人の療養看護を行ない、付添看護費用の支出を免れさせるなどして、遺産の維持に寄与した場合をいます。
ⅳ)扶養型
扶養型とは、相続人が被相続人を扶養して、その生活費を負担し、遺産の維持に寄与した場合をいいます。
ただし、夫婦は互いに協力扶助の義務を負っていますし、直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養義務を負っていますから、扶養行為が寄与行為として認められるには、それを超えた特別の寄与にあたるかどうかの判断が必要になります
ⅴ)財産管理型
財産管理型とは、相続人が被相続人の財産の管理を行ない、管理費用の支出を免れさせるなどして遺産の維持に寄与した場合をいいます。
不動産の賃貸、管理、修繕、保険料や公租公課の支払い等の行為が考えられます。
(3)寄与分を定める手続
寄与分は原則として相続人全員の話し合い(協議)で決めます。協議がまとまらないときは、家庭裁判所に調停や審判を申立ててその額をきめてもらうことになります。ただし、寄与分の審判は、遺産分割の前提問題ですから、遺産分割審判の申立てがなされていなければなりません。
(4)寄与分の算定
ⅰ)法律上、寄与分の算定については、寄与の時期、方法、程度、遺産の額、その他一切の事情を考慮すると規定されているのみで、実際の適用は、家庭裁判所の合理的な裁量に委ねられています。
寄与分の具体的算定に当たっては、遺産の維持又は増加についてなされた相続人の寄与の程度を客観的に認定しただけでは足りず、これに加えて遺産の額等一切の事情を考慮し、裁量的にその額あるいは割合を定めることになります。
おおよそ、次のような計算式で求められます。
寄与者の相続額=(相続開始時の財産価格-寄与分の価格)×相続分+寄与分 の価格
ⅱ)具体例
・商店を営むAが死亡し、その遺産が5,000万円、相続人は妻B、子C、D。このうち、子CはAとともに家業に専念してきたため、その寄与分を協議により800万円に相当するとした場合
妻Bの相続分 (5000万-800万)×1/2=2100万
子Cの相続分 (5000万-800万)×1/4+800万=1850万
子Dの相続分 (5000万-800万)×1/4=1050万
8 相続放棄
(1)相続放棄とは
相続放棄とは、遺産を引き継がないと意思表明をし、相続をしないようにすることです。相続が開始すると、被相続人の財産に属した一切の権利、義務、すなわち、プラスの財産だけではなく、借金といったマイナスの財産も引き継ぎます。相続が発生した場合は、相続人は必ず相続をしなければならないということになると、このようなマイナスの財産が多いような場合、相続人に過大な負担を課すことになります。
そのため、民法ではある相続人が相続を放棄することを認めています。
(2)相続放棄の期間
相続の放棄をしようとする者は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内(熟慮期間)に、被相続人の住所地又は相続開始地を管轄する家庭裁判所に対し、手続書類を提出しなければなりません。
なお、財産の調査に時間を要する場合などには、家庭裁判所への請求により、3ヶ月の期間を延長してもらうこともできます。
また、自己のために相続の開始があったことを知ったときとは、被相続人が死んで自分が相続人になったことを知ったときです。すなわち、被相続人の死亡・失踪宣告、先順位者の相続放棄等を知り、かつ、そのために自分が相続人となったことを知った時をいいます。
相続放棄が受理されると、家庭裁判所は申述人らの請求により 相続放棄申述証明書を交付します。
※相続人が未成年の場合
相続人が未成年の場合には、法定代理人(親権者等)がその子に代わって、相続放棄の申述することになります。
しかし、親と未成年の子が相続人で、未成年の子の相続放棄の申述を親が法定代理人として申述する場合、親自身も放棄する場合は問題ありませんが、未成年の子だけが放棄するときは、相続について親と子の利害が対立することになりますので、家庭裁判所に申し立てて、子のために特別代理人を選任してもらう必要があります。
(3)放棄の効果
相続の放棄は、家庭裁判所が放棄の申述を受理する旨の審判をすることによってその効力が生じ、その相続人は、初めから相続人でなかったものとみなされます。したがって、その子や孫への代襲相続することもありません。
例えば、相続人が子2人と配偶者の場合、法定相続分は配偶者が1/2、子が各自1/4ですが、子の1人が相続を放棄したならば、配偶者と残る子が相続人となり、それぞれ法定相続分は1/2となります。
また、配偶者と子がそれぞれ相続放棄をした場合、後順位の被相続人の直系尊属や被相続人の兄弟姉妹(代襲相続を含む)に相続の効果が及びますので、相続放棄をしようとする者は、あらかじめその旨を連絡しておくとよいでしょう。
(4)相続放棄の注意点
相続放棄は、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もまったく相続しないというものです。したがって、相続人が、相続放棄をする前に遺産を処分したり、また、相続放棄後であっても遺産を隠匿したりしたような場合には、相続人が単純承認したものとみなされ、無効になりますので注意してください。
事件の流れ
相続人調査に時間がかかる場合があります。亡くなった方の戸籍謄本を予め、ご用意ください。