離婚事件
離婚の種類
離婚の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
協議離婚 | ・夫婦が離婚の話し合いを行い、同意の上、離婚届を役所に出す事によって成立 | ・話し合いでの離婚を目指すため、簡便である ・当事者同士で行えば、弁護士費用や裁判費用も不要なため、金銭的負担がない | ・養育費・財産分与など、離婚条件があいまいになり、後に紛争になることがある |
調停離婚 | ・話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることによって成立 | ・第三者(裁判官、調停員)を介し、調停案を示すなどして、当事者間で公正で具体的に妥当な合意を成立させ、紛争の自主的任意的解決をはかることができる ・離婚そのものに限らず、親権者・監護者、養育費、財産分与、慰謝料、婚姻費用、面接交渉など離婚に関するあらゆる問題を同時に解決できる ・取り決めた内容が調停調書という書面によって残される(調停が成立した場合)ため、強制執行が可能である | ・最終的に両者の合意がなければ離婚は成立しない。 ・時間がかかる。 |
審判離婚 | ・調停が成立する見込みがないものの、離婚が妥当であると思われる場合などに、家庭裁判所が職権で離婚を認めることで成立 | ・協議離婚、調停離婚とは異なり、離婚を強制的に成立させることができる | ・審判告知の日から2週間以内に異議の申立があると審判の効力は失われる |
裁判離婚 | ・調停では合意に達しない場合、また審判に不服があって2週間以内に異議を申し立てた場合に、家庭裁判所の「判決」を得ることによって成立 | ・強制的に離婚を成立させることができる ・離婚に伴うさまざまな問題を解決することができる | ・民法に定める特別な「離婚原因」がない限り、離婚が認められない ・法律の専門知識が必要となるため、専門家に依頼する必要がある |
離婚とお金の問題
1 慰謝料
(1)慰謝料とは
慰謝料とは、結婚生活において、精神的な苦痛やショックなどの損害を受けた一方が、その原因を作った相手方に対して請求する損害賠償です。
慰謝料が認められやすいケースとしては、どちらに責任があるか明確である場合です。
例えば、
・相手が暴力をふるう
・相手が不倫をしていた
・相手の浪費癖がひどく、生活費を渡してくれなかった
などのケースが挙げられます。
他方、慰謝料が認められにくいケースとしては、どちらに責任があるかという判断が難しい場合や夫婦双方に責任がある場合、あるいは、夫婦どちらか一方に離婚となった責任があるとしても、その責任が慰謝料を払わせるほどのものではない場合などです。
例えば、
・性格の不一致での離婚
・家族親族との折合いが悪い
・価値観の相違
などのケースが挙げられます。
(2)慰謝料の金額
慰謝料の金額については、「離婚に至った原因」、「結婚の期間の長さ」、「相手方の資力・収入」等、さまざまな事情を総合的に考慮して決定されるため、「このような事例の場合はいくら」といった明確な基準はなく、個々の事例によって変動します。
一般的には、100万円~300万円くらいに落ち着くことが多いようです。もっとも、事案によっては50万円程度になる場合や、300万円以上になる場合もしばしばあり、個別具体的な事情によって金額は異なります。
慰謝料がいくらになるのかは、どのような事実があったのかを、具体的に立証することが重要となります。
しかし、証拠を集めることは困難ですし、そもそもどのような証拠を集めればよいのかが、わからないと思います。
裁判所にうまく事情を理解してもらえるような有用な証拠や主張を組み立てるためには、個人ではどうしても限界があります。慰謝料の算定で損をしないためにも、法律の専門家である弁護士へのご相談をおすすめします。
(3)慰謝料の請求期限
慰謝料の請求は、3年で時効にかかります。そのため、原則として離婚が成立してから3年を経過してしまうと、慰謝料を請求できなくなってしまいます。
2 財産分与
(1)財産分与とは
財産分与とは、結婚してから離婚するまでの夫婦の共有財産を分けることです。通常、銀行口座・不動産・自動車などは、夫婦どちらか一方の名義になっていますが、たとえ、それらの名義がどちらか一方のものだったとしても、離婚の際に清算されます。
また、財産分与は、夫婦の共有財産の清算を目的としていますので、離婚の原因が夫婦のどちらにあったとしても、請求できます。
(2)財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となるのは、夫婦の「共有財産」であるため、夫婦各自の固有の財産、いわゆる「特有財産」は、財産分与の対象とはなりません。
【財産分与の対象となる財産の例】
・現金・預金
・不動産(土地・建物)
・株などの有価証券・投資信託
・自動車
・家財道具
・生命保険金
・退職金
・年金受給権
・債務(住宅ローン)
※マイナスの財産も財産分与の対象になります。
【財産分与の対象とならない財産の例】
・結婚前から各自が保有していた財産
・親からの相続財産・贈与を受けた財産
(3)財産分与の方法
財産分与の方法は、①話し合い(協議)によって財産分与を取り決める、②離婚調停、離婚審判、離婚訴訟などの裁判所の手続きで決めて行く、という2つの方法があります。
なお、話し合いによって財産分与を取り決めた場合には、その内容を記載した文書を作成することが一般的です。おすすめは、「強制執行認諾文言付公正証書」です。将来にわたって分割で支払ってもらうような場合には、万が一支払いが滞った場合でも、 相手方の給料やその他の財産を差し押さえることができます。
(4)財産分与の時期
財産分与は離婚時に決めるのがよいのですが、離婚だけ急ぐ場合もあります。その時は、離婚から2年以内に、調停などの手続きを取って下さい。財産分与は離婚してから2年以内に請求しなければ、時効にかかりますので、注意が必要です。
3 退職金
(1)退職金について
退職金には、給与の後払い的な性質があると考えられているため、退職金も財産分与の対象となると考えるのが一般的です。
他方、退職金が実際に支払われるのは退職のときであり、会社の経営状態や退職理由によっては支払いがされない可能性もあり、確実に支払われるわけではありません。
したがって、退職金を財産分与の対象とする場合には、退職金の支給が確実であると見込まれることが必要となります。また、仮に退職金が財産分与の対象になるとしても、全額をその対象とするのではなく、婚姻期間に応じた部分のみが対象となります。
(2)退職金が財産分与の対象となる場合
ⅰ 退職金がすでに支払われている場合
退職金がすでに支払われている場合には、実質的な婚姻期間(同居期間)に応じて金額を計算することになります。
ⅱ 退職金がまだ支払われていない場合
将来的に支給されることがほぼ確実であることが見込まれる場合は、財産分与の対象になります。その場合、会社の就業規則(退職金支給規定)や支給実態を考慮することになります。
そうでない場合も、後記の通り、分与する事例が増えています。
(3)退職金の計算方法
ⅰ 退職金がすでに支払われている場合
この場合は、退職金全額のうち、婚姻期間に応じた割合が対象となります。
例えば、勤務期間が20年間でそのうち婚姻期間が10年間という場合、退職金のうち半分が財産分与の対象となります。
ⅱ 退職金がまだ支払われていない場合
この場合は、分割対象となる退職金の計算方法は明確に決まっているわけではありません。
しかし、判例上はいくつか考え方が示されています。
【考え方1】
・別居時に自己都合退職したと仮定
・別居時の退職金相当額を計算
・ここで計算した金額から結婚前の労働分を差し引く
→例えば、50歳で別居・離婚するとして、その時点で自己都合退職した場合の退職金額が1500万円だとします。この会社に20歳から勤務していて、30歳で結婚した場合に、勤務期間は30年で婚姻期間が20年間なので、婚姻前の10年間勤務分の退職金割合を控除し、財産分与の対象となる金額を1500万円÷30年間×20年間=1000万円とみます。
【考え方2】
・定年退職時にもらう予定の退職金を算出
・そこから、婚姻前の労働分と別居後の労働分を差し引く
・中間利息を控除して口頭弁論終結時の額を算出する
→例えば、勤務期間が20歳から60歳までの40年間で退職金が4000万円の場合、婚姻期間が30歳から50歳までの20年間であるとすると、婚姻前の労働分と別居後の労働分割合を控除し、財産分与の対象となるのは4000万÷40年間×20年間と計算することとなります。さらにここから将来受け取るべきものを現在うけとることの利息分を差し引きます。
4 年金分割
(1)年金分割について
年金分割とは、年金保険料の納付実績を分割する制度で、平成16年に制度化された財産分与の一つです。対象となるのは、厚生年金と共済年金です。
(2)年金分割の種類
年金分割制度は合意分割と3号分割の2種類に分かれています。
合意分割 3号分割
分割の要件 当事者双方の合意又は家庭裁判所の手続きによる 不要
分割対象期間 全婚姻期間 平成20年4月1日以降の婚姻期間のうち、第3号被保険者であった期間
分割割合 年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)の合計の2分の1が上限 年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)の2分の1
請求期限 離婚をした翌日から2年以内 離婚をした翌日から2年以内
対象者 第3号被保険者だけでなく、第1号被保険者、第2号被保険者も可 第3号被保険者
(3)分割の方法
ⅰ 合意分割の場合
a)夫婦間の合意による場合
①当事者双方またはその代理人が、合意内容を記した書面を年金事務所の窓口に持参
②合意内容が記載された公正証書の謄本もしくは公証人の認証を受けた書面 を年金事務所の窓口に持参 ※この場合は、単独でできます
b)調停、審判、訴訟分割の場合
各調書を年金事務所の窓口に持参
ⅱ 3号分割の場合
3号分割の場合、当事者間の合意は不要ですので、分割を受ける当事者は所定の分割手続を踏めば、年金分割を受けることができます。
(4)分割の手続き
請求者の現住所を管轄する年金事務所に標準報酬改定請求書を提出して請求します。この際、手続きによって持参する書類が異なりますので、年金事務所に問い合わせた上、お訪ね下さい(3号分割の場合は当然に2分の1ですので、按分割合を定めた書類の提出は必要ありません)。
そして、年金分割の請求をすると、按分割合に基づいた改定が行われ、改定をした後の保険料納付記録が当事者双方に通知されます。
5 婚姻費用について
(1)婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦とその子供によって構成される家族が、通常の社会生活を維持するのに必要な費用のことを言います。
婚姻費用については、夫婦がその負担能力(収入の大小等)に応じて分担する義務を負っています。この義務は、別居していても法律上の夫婦である限り、なくなることはありません。
(2)婚姻費用の金額
別居中の婚姻費用の金額については、夫婦の話し合いが基本となりますが、婚姻費用についての協議がまとまらない場合、家庭裁判所に調停の申立てを行い、婚姻費用の金額を求めることができます。調停で合意が成立しなければ、審判手続きに移行して、審判により決めてもらえます。
家庭裁判所が、その分担額を定めるにあたっては、別居に至った事情、 夫婦関係の破綻の程度、破綻に対して当事者にどれだけ責任があるか、夫婦の収入、子供の人数、それぞれの子の年齢等を総合的に考慮して決めます。
しかし、さまざまな事情を考慮するがためにその算定は難しく、実務では「婚姻費用算定表」が広く活用されています。ただし、この算定表に基づくことが著しく不公平となるような特別の事情がある場合は、その事情を考慮して金額が増減されます。
(3)婚姻費用分担請求の始期と終期
婚姻費用分担請求の始期は、「婚姻費用の請求時、又は、調停申し立て時」とするのが、一般的な考え方です。したがって、過去にもらえるはずだった婚姻費用を、後から婚姻費用分担請求として請求するのは、原則として認められません(ただし、例外的に認められる場合もあります)。
別居後に婚姻費用を払ってくれない場合は、すぐに婚姻費用分担請求をしましょう。
一方、婚姻費用分担請求の終期は、婚姻費用分担義務がなくなったときで、別居の解消、又は、離婚成立時までです。離婚後は、婚姻費用の分担義務がなくなりますので、婚姻費用を請求することはできません。
6 離婚と税金
財産分与や慰謝料などに伴い、不動産を相手方に譲渡する場合、税金の知識が必要となってきます。
ここでは、分与者を夫と仮定します。
不動産の価格が、不動産取得時よりも分与時の方が値上がりしている場合、差額(譲渡益)について夫に対し税金がかかります。不動産譲渡所得税です。
ただし、居住用不動産で、譲渡の相手方が親族でない場合、譲渡益が3千万円以内なら税金はかかりません。したがって、親族でなくなった離婚成立後に、財産分与を原因として、所有権を移転します。
また、婚姻期間20年以上であれば、2110万円まで税金はかかりませんから、離婚成立前に贈与するのもひとつの方法です。
妻には、登録免許税がかかります。登記することにかかる税金です。固定資産税評価額の2%です。
財産分与を原因とする名義変更には、離婚協議書や調停調書、離婚届け出の記載のある戸籍謄本が必要です。
住宅ローンが残っている場合は、金融機関が債務者の変更に協力してくれれば問題ありませんが、支払能力などの関係から難しいような場合、他の金融機関の借り換えができるかどうか、検討します。
借り換えができなかった場合、公正証書を作成するなどして、夫とローンの返済や返済後の取扱を決めておきます。
完済した時には、抵当権を抹消するため、夫の印鑑証明や委任状が必要になってきます。また、夫は住所を変更しているので、住所変更の登記も同時に行うことになります。
7 保全処分
(1)離婚と保全処分
離婚に関しては、主に二つの場面で保全処分が必要となることがあります。
1つは、婚姻費用分担を請求する場合、もう1つは、財産分与を請求する場合です。
婚姻費用の分担を求めるにあたり、働くこともできず、差し当たっての生活費にも困っているというような場合には、婚姻費用分担の審判申し立て時に審判前の保全処分を申し立てる場合があります。これを「仮払いの仮処分を求める申立」といいます。
また、財産分与を行うにあたり、相手方が勝手に財産を処分したり、隠したりする恐れがある場合は、預金や不動産の処分を凍結させる申立を行います。
(2)保全処分の種類
離婚に際しては、3種類の保全処分の方法をとることが可能です。
ⅰ 調停前の仮処分
通常、調停の申立から成立までには、かなりの時間がかかります。その間に相手が財産分与の対象となる財産を隠したり処分したりするのを防ぐ手段が、「調停前の仮処分」です。
調停委員会は、調停の申立後、終了するまでの間、調停のために必要と認める処分を命ずることができます。
なお、調停前の仮の処分は、調停委員会の独自の判断に基づき、職権で発動されるものですが、申立人が必要と考える場合には、調停前の仮の処分の申立書を提出して職権発動を促すこともできます。
いかなる処分を命じるかは調停委員会の裁量によりますが、この処分には執行力はありません。仮の処分を命じられた者が、正当な理由なくこの処分に従わなければ、10万円以下の過料に処せられますが、執行力がないためあまり利用されていないのが現状です。
ⅱ 審判前の保全処分
家庭裁判所に審判を申し立てた上で、審判前の保全処分を申し立てます。この処分には執行力があるため、相手が財産を隠したり処分したりするのを防ぐことができます。
なお、審判の申立が必要ですので、調停の申立の後、調停不成立として調停を終わらせて自動的に審判に移行するか、調停と同じ事件について審判を申し立てるかのどちらかの措置を取ります。
また、この申立を行うにあたっては、求める保全処分と求める理由を明らかにする必要があります。
その上で、申し立てている審判が認められる必然性が高いか、保全の必要性や緊急性があるのかなどが審理されます。
命じられる処分には、仮差押え、処分禁止・占有移転禁止などの仮処分、婚姻費用や養育費の仮払い、などがあります。また、預金や給料などの仮差押えや不動産の処分禁止などの係争物に関する仮処分を申し立てる場合は、担保として保証金を供託する必要があります。しかし保証金の金額は、普通の裁判の場合に利用される民事保全の場合より低額なのが一般的です。
ⅲ 民事保全手続
一般の債権回収と同じように、民事保全手続を利用できるものもあります。例えば、慰謝料請求権は不法行為に基づく損害賠償請求権ですから、民事保全手続を利用できますし、財産分与や養育費についてもできる場合があります。
この手続きは、実際に離婚調停が始まる前に、相手方が財産を隠したり、処分してしまうことを防ぐ手段である点に特徴があります。
民事保全手続は、裁判での決着を待たずに、相手方の持っている特定の財産の処分権を制限することができるという、強制力を伴う手続ですので、以下のような厳格な要件が定められています。
①相手方に離婚原因があること
→仮に裁判になった場合、判決で離婚が認められる可能性が高い場合でなればなりません。
②保全手続を要する客観的な理由が必要
→相手方が財産隠しを行う可能性が高いと認められる客観的な理由(不動産の売却活動を行っているなど)のことです。
③担保(保証金)が必要
→裁判所に納めるもので、申立を取り下げれば、戻ってきます。金額は、保全する財産の額等により異なります。
これらの手続については、財産を処分されてしまってからでは遅いことからも、スピードが肝心です。
その意味では、この手続については、自分自身で行うより、弁護士等の専門家に依頼する方が望ましいと言えます。
離婚にまつわる子供の問題
1 親権と監護権
(1)親権と監護権とは
親権とは、未成年者の子供を保護・養育し、その財産を管理し、子供の代理人として法律行為を行う権利や義務のことです。
監護権とは、このうち身分上の養育保護、すなわち子の心身の成長のための教育及び養育を中心とする権利です。
親権は主に「身上監護」と「財産保護」に分けられますが、監護権は「身上監護」を意味します。つまり、監護権は親権の一部になります。
(2)親権者を決める手続
民法上、子供が未成年の場合、婚姻中は、両親が共同して親権を行使しますが、離婚後はどちらか一方を親権者として指定しなければなりません。
親権者は戸籍上にも記載されます。しかし、離婚・認知の場合、申し出があれば、監護者を別個に指定することもできます。
親権者の決定について、話し合いが付かず、調停でも折り合いがつかない場合には、親権者指定の審判手続に移行し、裁判所の判断により親権者を指定してもらうことになります。訴訟の場合も、同様です。
(3)親権の帰属
夫婦どちらが未成年の子の親権者となるかの判断は、離婚原因と直接の関係はなく、子供の福祉の観点からなされます。
具体的には、
①子供に対する愛情
②収入などの経済力
③代わりに面倒を見てくれる人の有無
④親の年齢や心身の健康状態など親の監護能力
⑤住宅事情や学校関係などの生活環境
⑥子供の年齢や性別、発育状況
⑦環境の変化が子供の生活に影響する可能性
⑧兄弟姉妹が分かれることにならないか
⑨子供本人の意思
などを総合考慮して決めていきます(一般的に子供が年少の場合には、子供が虐待される虞がある等の特段の事由がない限り、母親に親権が認められることが殆どです)。
なお、いったん決めた親権者等を変更したい場合には、親権者変更の調停・審判や監護権者変更の調停・審判を家庭裁判所に申し立て、新たな親権者を家庭裁判所で指定してもらうことになります。この場合、子供の福祉のために必要があると認められるときに限って、親権者や監護権者が変更されることになります。変更すべき特段の事情が必要となりますので、ハードルは高いといえます。
2 養育費
(1)養育費とは
養育費とは、子供を育てていくために必要な全ての費用のことを言います。養育費は、子供と一緒に暮らし、監護、養育している側の親(権利者)が、一緒に暮らしていない側の親(義務者)に請求します。
養育費の支払義務は、子供が最低限の生活ができるための扶養義務ではなく、それ以上の内容を含む「生活保持義務」といわれています。生活保持義務とは、自分の生活を保持するのと同じ程度の生活を、扶養を受ける者にも与える義務のことです。
つまり、養育費は、非監護親が、自分が暮らしている水準と同様の生活水準を保てるように支払っていくべきものであるということです。したがって、非監護親は、「生活が苦しいから払えない」という理由で支払義務を免れることはできず、生活水準を落としてでも払う必要があるということになります。すなわち、「養育費」は、非監護親が「余裕がある場合に支払えばよい」というものではありません。
(2)養育費の額
養育費の額は、それぞれの収入や生活状況などに応じて、決められるのが原則です。
具体的には、①義務者(支払う側)、権利者(もらう側)の基礎収入を認定し、②義務者、権利者、子のそれぞれの生活費を認定し、③義務者と権利者の負担能力の有無を確認し、④子供に充てられるべき生活費を認定し、⑤義務者の負担分を認定する、といったプロセスで計算します。
しかし、このようなプロセスで養育費の金額をきちんと認定していくためには、多くの資料が必要で、時間がかかるという問題点があります。
これを改善するために、家庭裁判所では、統計数値を利用して一定の計算式を作り、これに基づいて、権利者・義務者の収入、子の人数、年齢に応じて、標準的な養育費を算出できるようにした「養育費算定表」を使って決めるのが通例です。
なお、養育費の相場としては、平均的な夫婦で子供が一人の場合、毎月2万円から5万円程度です。また、子供が二人の場合は、毎月4万円から6万円程度になります。
(3)養育費がもらえる時期
養育費の支払いは、法律上、何歳までとは決まっておらず、「子供が社会人として自立するまで」とされています。これは必ずしも未成年者を意味するものではなく、家庭裁判所の調停や裁判例では、親の資力、学歴といった家庭環境を総合的に考慮し、上限を18歳から22歳までとする例が多いようです。
よく問題になるのが、大学進学の費用が養育費として請求できるか、ということです。
裁判例は、大学教育をうけさせる資力がある父親への請求で争いになったケースで、その子供に大学進学の能力があり、大学教育を受けさせるのが普通家庭における世間一般の通例である、として養育費を認めています。
(4)養育費の支払方法
養育費の支払方法については、「毎月○万円」というような毎月一定額払いが一般的です。
では、せっかく決めた養育費を払わなくなった場合は、どうしたらよいのでしょうか。その場合には、強制執行をする必要があります。
その準備として、協議離婚の場合、合意書(離婚協議書等)を作成しておきましょう。また、この合意書(離婚協議書等)は、できれば公正証書にしてもらうのがいいでしょう。「強制執行認諾文言付公正証書」にしておくことによって、将来、養育費の支払いが滞った場合、 相手方の給料やその他の財産を差し押さえることができます。
なお、調停調書、判決を得ている場合には、それをもとに強制執行を行うことができます。
(5)額の変更
養育費については、いったん決めたものであっても、事情変更があった場合には、増額・減額の請求ができます。
例えば、子供が大病を患って多額の医療費がかかるといった事情や、進学に特別の費用が必要になった場合には、増額の主張を検討することができます。
逆に、例えば、非監護者(義務者)が再婚して子供が産まれた(=扶養家族が増えた)といった事情や、監護者(権利者)が再婚した、等の事情がある場合には、減額の主張を検討することができます。
しかし、多少の事情変更では増額や減額の請求は認められません。また、これらのような事情があっても、養育費の増額や減額が自動的に行われるわけではありません。
養育費の増減や減額は、当事者同士で合意し、まとまればいいのですが、まとまらなければ裁判所に対して養育費増減の申立をする必要があります。
その際には、有利な事情をきちんと主張する必要がありますので、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
その他離婚にまつわる諸問題
1 離婚後の氏と戸籍
(1)離婚後の氏
日本の法律上、婚姻をすると男性もしくは女性のどちらか一方が必ず氏を改めなければなりません。したがって、離婚後に氏がどのようになるかは重要な問題となってきます。
ⅰ 婚姻して氏を改めなかった人の場合
婚姻により氏を改めなかった人(結婚後もそのままの姓を名乗っていた人)は、離婚をしてもそのままの氏を名乗ることになります。
ⅱ 婚姻して氏を改めた人の場合
婚姻して氏を改めた人は、民法上離婚をすると当然に旧姓に戻ります。これを復氏といいます。
ただし、婚姻時の氏をそのまま名乗りたい場合は、離婚の日から3ヶ月以内に「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出すれば、離婚後も婚姻時の氏を名乗ることが可能です(ただし法的には同じ氏でも婚姻時とは違う氏になります)。
なお、離婚から3ヵ月が経過してしまった場合でも、家庭裁判所で氏の変更許可の審判を申し立て、家庭裁判所の許可を得た上での氏の変更の届出をすることができますが、裁判所による許可は、どのような場合も認められるわけではなく、「やむを得ない事由」が必要とされます。
氏を変更する「やむを得ない事由」にあたるかどうかはかなり厳しく判断され、名乗る氏を変更しなければ、生活に支障を来しているといった厳格な理由が必要となります。
同様に、婚姻中の氏の継続使用を選択し、その後旧姓に戻る場合や、旧姓に戻した氏を、婚姻中の氏に変える場合なども、家庭裁判所の許可が必要となり、「やむを得ない事由」がないと認められないので、慎重な判断が必要です。
(2)離婚後の戸籍
婚姻中の戸籍は、夫婦の戸籍として一つでしたが、離婚をすると戸籍が二つに分かれます。
ⅰ 婚姻して氏を改めなかった人の場合
婚姻して氏を改めなかった人の場合は、従前の戸籍にとどまることになり、特別な手続は必要ではありません。
ⅱ 婚姻して氏を改めた人の場合
婚姻により氏を改めた人の場合は、離婚するとその戸籍から除籍されるので、その際に、結婚前の戸籍に戻るのか、単独で新しい戸籍を作るのかを選択しなければなりません。
なお、結婚前の戸籍に戻るかあるいは単独で新しい戸籍を作るかは、離婚後も引き続き結婚している間の氏を使用するか否かによって異なってきます。
①離婚後も結婚している間の氏を使用する場合
この場合、原則として、新しい戸籍が作成され、その新しい戸籍に入ることになります。
②離婚後に婚姻前の氏に戻る場合
この場合、原則として、結婚する前の戸籍に戻ります。これを復籍といいます。なお、新しい戸籍の編成の申し出をした場合は、新しい戸籍が編成されることになります。
(3)離婚後の子供の氏と戸籍
ⅰ 離婚後の子供の氏
父母が離婚しても、子供の氏は当然には変更されません。そのため、婚姻によって氏を改めた者が親権者となり(仮に母親とします)、かつ旧姓に戻った場合、子供と母親の氏と戸籍は異なるということになります。
また、母親が「離婚の際に称していた氏を称する届」を出していた場合でも、法律上、「婚姻中の氏」と「続称の手続をとった氏」は別の氏とされるため、呼び方は同じであっても、その母親と子の氏は異なることになります。
ⅱ 離婚後の子供の戸籍について
離婚をすると、婚姻して氏を改めた者は、婚姻前の戸籍に戻るか、または別に新しい戸籍を作るか、どちらかを選択することになりますが、子供の戸籍については、何らかの手続をしなければ従前のままであり、自動的に親権者である母親の戸籍に移動することはありません。また、子供と母親の氏が異なる場合、子供は母親の戸籍に入ることができません。この場合、原則として子供は婚姻時の夫婦の戸籍に残ってしまいます。
したがって、婚姻して氏を改めた母親が親権者となり、自分の戸籍に入れたい場合は、子供の住所地を管轄する家庭裁判所に、子の氏の変更許可申立書を提出し、許可審判書の謄本と子供の入籍届を市区長村役場に提出する必要があります。
なお、婚姻前の戸籍に復籍した場合で、戸籍の筆頭者ではない場合には、子供がその氏を変更しても、その戸籍に入ることはできません。この場合は、子供の親を筆頭者とする新しい戸籍がつくられます。戸籍は夫婦および夫婦と氏を同じにする子供ごとにつくられる(戸籍法6条)ことになっているため、母親が復籍した戸籍の筆頭者がその母親の両親(子供にとっては祖父・祖母)であると、親、子供、孫の三世代の戸籍になってしまい、戸籍法に反する事態になってしまうからです。
2 離婚届の不受理申出
(1)不受理申出とは
離婚届に押す印鑑は三文判でもよく、印鑑証明も不要です。夫婦が揃って役所に出頭する必要もなく、また、双方の意思確認も行われません。書式さえ整っていれば、簡単に受理されます。
そのため、勝手に離婚届を出されるというトラブルが発生する事があります。
また、離婚の話し合いをしている最中に、諦めの気持ちからや、口論になった勢いで離婚届に署名捺印をしてしまったが、その後、離婚の意思が無くなったということがあります。
このような場合、本籍地、又は住所地の市区町村役場に、離婚届不受理申出書を提出します。これは、離婚届を受理しないでほしいと役所に届けるもので、相手が勝手に離婚届を提出しようとしても、不受理申出書が先に提出してある限り、離婚届が受理されません。提出には、免許証等本人が確認できるものと認印が必要です。
(2)不受理申出の取下
不受理申出の有効期間は、以前は最長6ヵ月でしたが、戸籍法の改正により、平成20年5月1日以降の申出では、有効期間が撤廃されました。つまり、取り下げるまでは、無期限で有効ということです。
不受理申出書を提出した後、お互いが離婚に同意し、離婚が成立した場合、申出書を提出した本人が離婚届を提出するのであれば、離婚届は受理されます。
しかし、相手方が離婚届を提出しても受理されません。したがって、離婚が成立したら、不受理申出は、すみやかに取り下げるようにしてください。
(3)勝手に離婚届を出された場合
勝手に離婚届が提出され、かつ、役所で受理されてしまった場合、離婚の効力が発生してしまいます。戸籍に離婚と記載されてしまうと、それを訂正することは、簡単にはできません。
偽造した離婚届を提出することは犯罪ですが、たとえ偽造した離婚届を勝手に出されたとしても、役所は離婚を訂正することはできません。
このような場合には、家庭裁判所に離婚無効の調停を申し立てます。
しかし、相手が勝手に離婚届を提出したことを認めてくれればよいのですが、認めてくれない場合、離婚の意思が無かったことを証明しなければなりません。その上で、離婚が無効であるとの審判が出されますが、相手は審判に対して異議の申立をすることができます。異議申立があると、審判は無効となり、調停は不成立となります。そうなると、離婚無効の確認を求める訴訟を起こすことになります。審判・裁判で離婚無効の判決が確定すれば、1ヶ月以内に審判または判決の謄本を付して、戸籍の記載の訂正を戸籍係に申請することができます。そうして戸籍から離婚の記載は抹消されます。
このように、離婚届は、簡単に受理される一方で、一旦戸籍に記載された事項の訂正には大変な労力を伴います。離婚の意思がない場合や離婚原因が納得できない場合には、絶対に離婚届に署名捺印をしないようにしましょう。また、リスクを感じたら、かならず離婚届の不受理申出書を提出してください。
事件の流れ
その他、協議離婚の任意交渉、公正証書作成のための離婚条件交渉等をすることもあります。
調停申立てまでの事情聴取は、一月ほどかかります。